おひとりさまの老後のライフ・スタイルをリアルに綴ったポジティブ・エッセイ
由緒正しい(独居娘から独居オバサンそして、独居老人)である著者が、思わず笑ってしまうエピソードから、じっくり耳を傾けたくなる教訓まで、豊富な人生経験と独居生活で培ったノウハウを教えてくれる。
ふと気がついたら、独居老人になっていた。大学を出てすぐ一人暮らしを始めて独居娘になり、やがて独居オバサンになり、独居老人になったのだから、私は生粋の独居老人である。
独居老人にもいろいろあって、離婚して、あるいは配偶者に先立たれて、はからずも独居老人になる方も多いが、私は独居娘から独居老人になった由緒正しい独居老人である。
自分がドッキョロ老人と気づかされたのは、ある夏の午後だった。自宅にいたら、訪れる人があった。
「どなたでしょうか?」
「私、この地区の民生委員を務める者で・・・」
「はい、どんなご用でしょうか?」
「ええと、お宅にお年寄りいらっしゃいますよね?」
「いえ、私ひとりですが」
民生委員氏はとまどったようすで、ミッキィマウスのTシャツにショートパンツ姿の私をまじまじと見てから、手元の紙を見ていった。
「あの、シブサワサチコさんは・・・」
「はい、わたしですけど。なにか?」
「あ、ご本人ですか? いや、いいんです。べつになにも問題ありませんよね」
「問題って?」
ものわかりの悪い私は言った。
「いえね、独居老人の方のごようすを見てまわるのも民生委員の仕事で・・・でも、お元気そうですね。」
「あ、すみません、わかりました。お世話さまでございます。はい、今は元気ですけど、なにしろ一人暮らしですから、いつなにがあるかわかりません。その節はよろしくお願いいたします」
私はあわてて神妙に応じた。そうなんだ、私、独居老人になったんだ。すご〜い!と初めて気づいたのは、そのときであった。 (本文より)
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